今回のゲストは、吉田いわく、「今日、初めてお名前の読み方を知るアニメファンが多いと思いますが、必ず年に数十回は見ている名前のはず」というこの人。A-1 Pictures代表取締役の植田益朗さん。にこやかに現われた植田氏は、『青エク』(※1)『宇宙兄弟』(※2)『俺の妹。』(※3)などなど、数多くのヒット作、そして2011年に大きな話題をさらい、今夏ついに劇場版が公開された『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を手がけた剛腕プロデューサー…とは思えぬマイルドさです。
ゲストProfile
植田益朗(うえだますお)プロデューサー。サンライズで「劇場版 機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」などを手がけ、アニプレックス統括チーフ・プロデューサーを経て、現在、A-1 Pictuers代表取締役に。
「現場の勢いを感じると賭けてみたくなる」
「『あの花』は企画段階から号泣ですよ」と植田さん
こんばんは。畳の部屋に、スーツで、扇子を持っていらっしゃると、どう考えても、プロ棋士の人が対局に来たような感じですね。今回の主題はもちろん、放送当時大ヒットして、現在公開中の『あの花』ですが…
――タイトルが出たとたん、泣き真似をする植田社長…。
僕はTV版も見ているんですけど、初めて見た人とTV版を見た人とでは反応が全然違うと思うんです。僕は始めっから泣きっぱなしでした
植田さんは社長という立場上泣けなかったりするんですか?
今まで、深夜アニメの劇場版では『けいおん!』(※4)が最大のヒット作と言われていますけど、それに次ぐ大ヒットになっていますよね。社長としては今一番嬉しい瞬間?
そうですね。『風立ちぬ』が見えてきたっていう感じですね(笑)
想像以上のヒットになるものもあれば、まぁ想像よりあまりいかないものもある中で、やっぱり『あの花』っていうのは、想像以上のヒットでしたか
それは、もう想像以上ですね、やっぱり。始まる前にすごいエネルギーを感じる作品があるんですよね。みんながシナリオとかキャラクターとか見て、どんどん気持ちが入ってくるっていうか。1話の完成版を観て、みんないきなり泣いちゃったーみたいな
『あの花』には僕も始まる時から関わらせていただいていて、で、宣伝プロデューサーの方とお会いしたんですが、もう20代のプロデューサーさんとか、持ってくる時に涙目だったりするんですよ。もう入れ込み過ぎちゃって、「この人、このシリーズ終わっちゃったらどうするんだろう」っていうような状態になっている人が多かったんですけど、この企画の初めの成り立ちって?
アニプレックスとA-1 Picturesで、オリジナル企画をやっていこうというプロジェクトの一環で、出てきた企画なんですよね
スタッフの方が先ですね。ですので、逆にオリジナルプロジェクトをやろうっていった時に、若いプロデューサーたちが、まぁ、『とらドラ!』(※5)チームというか、長井(龍雪)さん、岡田(麿里)さん、田中(将賀)さんで、オリジナルをやりたいって言うんで、こんなもの作りましたって書いてきたのが最初です
いろんな企画がある中で、今回、宇宙ものばっかりが続いたから、今度もう別のやらないといけないよ、とかいうふうなジャッジとかしそうな気がするんですけど
コンセプトから入る時もありますよ。何が流行っているのか見ながら、チョイスする場合もありますけど、作る現場のスタッフのノリっていうんですかね、勢いみたいなのを感じると、やっぱりこれに賭けてみたいと思うんですよね
いえいえ、だから騙されるわけですよ、紙切れ一枚に、我々は
(『あの花』の場合だと)企画書に幽霊になった昔の幼馴染が現われてって書いてあって、やりたいことがすごくシンプルに書かれてある。友情の再生の物語で、田中さんの簡単なラフの画があって、長井さんが監督しますとなっている。これは面白そうだなと
このゴーサインを出す時に、もう『あの花』は、想定外のヒットになることはともかく、もういい作品になるぞっていうにおいはもうここからしてた?
そうですね、最初の段階で、可能性をすごく感じましたね
でも今までに、数限りなく、企画をご覧になっていますよね。その中で、いいにおいがしないと、絶対ヒットしないですか。それとも、「俺としてはそうでもないな」って思ったけど、「あ、これヒットするんだ」って思うこともあるんですか?
うーん。ま、あんまり…。最初に「これ駄目なんじゃないか」って感じた企画は駄目みたいですね、やっぱり
【編集注】
※1『青の祓魔師』。「少年ジャンプ」で連載中の加藤和恵原作のバトル系少年漫画。岡村天斎監督で、2011年にTBS系列、通称“日5枠”ほかにて放送。翌年映画化。
※2小山宙哉原作の青年漫画。「モーニング」にて連載中。宇宙を目指す兄弟の奮闘を、壮大なスケールで描く。2012年4月から、読売テレビ・日本テレビ系を中心にテレビアニメスタート。劇場版も2014年夏公開予定。
※3『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』。伏見つかさのライトノベル。タイトル通りツンデレな妹萌えの兄を主人公に周囲の女性たちとの関係と、成長を描く。2010年、2013年と、2シーズンにわたってアニメ化。神戸洋行監督、倉田英之がシリーズ構成を務めた。原作、アニメだけでなく、ゲーム、コミックと幅広いメディアで展開し、大ヒット作となっている。
※4いわずと知れた京都アニメーション制作の大ヒットテレビアニメ。2011年には劇場版も公開され、観客動員数は100万人以上、興行収入は19憶円を記録。
※5竹宮ゆゆこ原作のテレビアニメ。制作はJ.C.STAFFだが、長井龍雪監督、シリーズ構成岡田麿里、キャラクターデザイン田中将賀の3人が『あの花』以前に組んだ作品。
※6長井龍雪のこと。アニメーション監督。代表作は、『あの花』のほかに、『とらドラ!』(2008)『とある科学の超電磁砲』(2009)など。監督デビュー作は『ハチミツとクローバーⅡ』(2006)。
※7 岡田麿里のこと。脚本家。『あの花』ではシリーズ構成を務める。舞台となっている埼玉県・秩父市出身であり、作品には彼女の原風景が色濃く反映されている。ほか、シリーズ構成として代表作は『とらドラ!』『花咲くいろは』(2011) など。監督の長井、キャラクターデザインの田中とは親交が深いという。
「企画は多数決で決めない」
熱量のすごい人が1人いると、その他が反対でも賭けてみたくなるのだとか
――話題はオリジナルを作る難しさと、やりがいについて。めずらしく(!?)まじめモードなトークが展開します。吉田氏の進行にも熱が!
オリジナルっていうのは誰もが想像つかないじゃないですか。完成する形を。なので、たくさんの人が意見を言ってくると、だんだんわかんなくなってきちゃうんですよね。で、企画って絶対多数決で決めてもよくなくて
絶対決めちゃいけないんですよ。だから、10人いて、9人が反対しても、10人目がもう20倍くらいのパワーで言えば、それに賭けちゃおうみたいなところがあるわけですよね
イチかバチかなんですけど、熱量っていうんですかね。賛成する手の挙げ方にも、「まぁいいんじゃないかな」っていうのと、「いやもう絶対自分が観てみたい」っていうのと、やっぱり作ってみたいっていう側のエネルギーの掛け算っていう感じになってくると思うんですよ
誰かひとりはこの作品のためにもう人生賭けちゃう、みたいな人がいない作品っていうのは、やっぱり観てても感じるものがありますよね
それは別に作り手だけじゃなくて、制作側というかプロデューサー側の中にも、命がけといったら変ですけど、制作スタッフの一生懸命作った作品をヒットさせたいというプロデューサーや関係者がいるかいないかっていうのは、プロジェクトを引っ張っていくときに大事なんですよ
『あの花』を観てて思ったのが、周りの人がどんどん感染していくみたいな感じなんですよ。ひとりの熱に浮かされて、みんながチームになっていったなっていう感じがします。そういうのって感染源になる人がいらっしゃるかと思うんですけど
最初の感染源はアニプレックスのプロデューサーだったり、A-1 Picturesのプロデューサーだったりっていうメンバーですね。彼らが、面白い!って信じ込んでずっとやってきているのが、どんどんどんどん広がっていきました
僕まず1話観た時に、「やばい」って思ったんですよ。「なんだこの脚本」って。何にもないかのように始まって、とんでもないことを仕込んで去っていく。爆弾みたいな脚本だと感動して、僕はすぐにこの世界に入っちゃったんですけど、植田さんはどのあたりなんですか?
僕は脚本というよりも、1話を観た時に、長井演出のすごさ。「いや、これ、ほんとに続くの?」みたいな感じでしたよね。このまま走り切れるか心配になるぐらい、命がこもっていた。それが1話だったと思うんですよ。スタッフの魂みたいなものが観てる人にも伝わったんじゃないかな
――今回は、せっかく人気スタジオの社長がゲスト…ということで、A-1 Picturesの過去8作品の中から、どれが一番人気なのか、視聴者ライブ投票を敢行!
コーナー進行は、おなじみの顔となりつつあるうざキャラスタッフ、札幌のジャックナイフ。「マジLOVE1000%」(※8)を口ずさみながらの登場に、思わず下を向く植田さん。
あなたのハートに笑顔を届ける、札幌のジャックナイフ。ジャックって呼んでいいぜ!
はい。今のフリはゲストを帰すだけのパワーがあったと思います
――しかし札幌のジャックナイフはそんなダダ滑りの雰囲気にも負けず。
ということで、A-1Picturesの人気アニメ8作の中からひとつを選んで、皆さんに投票していただきたいと思います
――候補となったのは、『あの花』をはじめ、『マギ』『銀の匙』『WORKING!!』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』『THE IDOLM@STER』『宇宙兄弟』『青の祓魔師』の8作品。
まぁ僕はですね、この中には入ってはいないんですけれども、『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』が大好きですね
――なぜかジャックから目をそらす植田さん。
チワワちゃんと真涼ちゃんの間で、何回も揺れ動いて、定まらない感じが…
あの、植田さんがまったく目を合わせてくれないって気づいていますか?
今視聴者の方の集計をしていますが、社長としては言いづらいかもしれないですけど、社長はどれだと思いますか?『あの花』以外で
『あの花』以外ですと…。長くやっているという意味で、『宇宙兄弟』にしておきましょうかね
えー…と、それは聞いていい事情なんですかね? 聞いちゃいましょう。なぜでしょう?
いやーそれは、ちょっとこれを見ている関係者から、あとでいろいろと厳しい糾弾をされることになっているので…
それでは集計結果見てみましょう! 社長の予想はあたっているのでしょうか。『あの花』人気は圧倒的で、あ、でもやっぱり『宇宙兄弟』と『俺の妹。』が同率2位
でもこれだけたくさん作品手がけている中で、A-1 Picturesさんの特徴ってどんな企画でもいけるところだと思うんですよ。人情ものもいけるし、SFっぽいものもいけるし、一方でコメディもいけるし、シリアスなものもいけるというふうに思っているんですけれども
そうですね、まぁ、ひとつのジャンルに拘らない会社と言ってしまえばそういう会社かなぁと思いますけど
おもしろければいいっていうか、おもしろく作れる自信があるんだったら、どんなジャンルもトライしようっていうふうに思っています
【編集注】
※8 A-1 Pictures制作の人気アニメ「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%」の主題歌。
『ガンダム』はある意味、完璧に近い作品
アニメの本質は色褪せないこと。「アニメのキャラクターはいつまでも思い出のままですから」
――ここからトークは、植田さんのヒストリーへ。『劇場版 機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』に、すでにプロデューサーとして参加していたことは割と有名な話で…。
僕は『ガンダム』がほんとに会社に入って最初にやった仕事なんですよ
実は、もともとはアニメはほとんど興味がなくて。日本サンライズ(現サンライズ)入って、『ガンダム』班に投入されて、作品を初めて見た時に「何でこんなことをアニメでやるんだ?」って最初に思ったわけですよね
でも、それって、当時の大人のまっとうな反応ですよね
こんな理屈っぽいこととかちょっとややこしいことやるんだったら、実写でやればいいんじゃないのと思っていたんですけど、作品が終わるころになると、すごく作品にのめり込んでいて、周りを見渡すと、こんなことやっているのは、うちの会社くらいなんだなっていうことに気づいたんですよね。でも、その時はもう打ち切りが決まった時だったので、アニメって面白いのに…と思ったんですよ。最初にこの『ガンダム』に出会っちゃったんで、たぶん今ここにこうやって座っているんだと思うんですよね
『ガンダム』に関しては、もうほんとに何度も考えていらっしゃると思うんですけど、企画の芯ってなんですか?
これすごく言い方が難しいんですけど、とにかく『ガンダム』ってすごくいろいろな要素が入っていて、かなり完璧な形に近いと思うんですよね。企画の芯というと、僕が思うにあのラストシーンに全てが集約されていると思うんですよ。アムロが、ニュータイプだのなんだのいろいろ言われて、シャアと確執があって戦いがあって、ララァが死んでいろんなことがあるけど、最後はやっぱり仲間の待っているところに帰っていくという。あのシーンがあったからこそ、『ガンダム』ってすごく今でも残っているんだと思うんです
――今日のお話はここまで。ジャックの痛々しい姿にも黙って耐えてくださった植田さんありがとうございました。
もう最後30秒で聞くことでもないんですけど、アニメってなんですかね? 一言で言って
アニメですか。あの、永遠に思いと画が残るっていうことじゃないですかね
そこの、思いと画が残る力って、実写とは違うものが?
そうですね、実写は役者がやっているので、役者って歳とってくるんですよ。10年後には10年分歳を取った役者がいるわけじゃないですか。そうすると自分のイメージとは離れていってしまう。アニメは10年後もそのままですから
今日の一筆

映画館で一緒に泣こう!