アニオタ過ぎるニッポン放送のラジオアナウンサー吉田がアニメについて語りたいだけ語るというコンセプトで始まった「吉田がキャラホビで企んでる」。「この世に面白くないアニメはないと思うんですよ」と吉田。第1回のゲストはスゴイ人がいいと言っていたところ、本当にビックゲストが来てくれました。「翠星のガルガンティア」(※1)シリーズ構成・脚本を手掛けた虚淵玄さんです。
ゲストProfile
虚淵玄(ニトロプラス)(うろぶちげん)。PCゲームメーカーニトロプラス所属のシナリオライター。代表作は「魔法少女まどか☆マギカ」(脚本)、「PSYCHO-PASS サイコパス」(ストーリー原案・脚本)など。アニメファンからは「虚淵さんがシナリオを書くと人がどんどん死んでいく」と恐れられている。
怪獣が生まれちゃった「まどか☆マギカ」
もうアニメファンの人はほとんどがその名前を知っていると思うんですけど
そんなことないですよ。長くやっていますけど一般に名前が出たのは最近ですよ。ずっとエロゲーやっていましたし
そのエロゲーも、かわいい女の子がいっぱい出てきて…というタイプではないという。世界を救うか、女の子をどうにかするかみたいな作品をやってらして…
隙間狙いで、ちょっとベクトルの違うものを作っていましたね
なにか間違って東京都に表彰(※2)されちゃいましたね
とはいえ、虚淵さんが何者なのかというのを初めて知る人がいると思うので、まずは虚淵さんの名前を一躍有名にした「まどか☆マギカ」(※3)についてから。魔法少女というと、普通はキラキラ輝いていてというのを想像するんですけど「まどか☆マギカ」はすごくダークな展開ですよね
最初のオーダーからしてそうだったんですよ。魔法少女なんだけど、バトルロワイヤル方式で毎回誰かが脱落していくという内容にして欲しいと受けまして。僕も最初は驚いたんですよ
魔法少女じゃなかったら、確かに虚淵さんの得意分野ですね
そうなんですよ。いいですよーって受けたら、「キャラクター原案は蒼樹うめさんです」と言われて、おいおい何を言っているんだと(笑)。この絵でグロアニメをやるのかと途方に暮れまして、悩み悩み提出した企画がこれなんですよ
企画の段階で、テイストをマイルドにしたりということもできたと思うんですが
え、このアニメ、かなり早い段階で、魔法少女が1人、首から喰われるんですけど
僕は、シナリオの段階では、頭からかじられているけど、何が起きたかはわからないアングルにしてくださいって書いたんですよ
映像が出来上がったら、ガリッ、ブチッってなっていましたね。見えてないけど
見えてないけど、あれは誰が見ても首から食べられていると思いますよ
スプラッタにはしたくないシーンだったので、一応コメントを付けたんですけどね。絵作りに関しては、コンテのかたにお任せしているんですけど、絶対にそうして欲しくないところにはコメントを入れるようにしているんです
でもこのシーンがあったことによって、この作品の形が視聴者にも見えたんじゃないかな。で、そこからの怒涛の展開、伏線があって、視聴者がみんなびっくりした。それで社会現象になったんだと思うんですが、この大ヒットは目論んでいたんですか?
考えていませんよ。考えていたらもっとグッズを作っていましたよ(笑)。たぶん、プロデューサーも予想してなかったはずです。実験的作品だったと思います
ちっちゃな生物ができたらいいなと思っていたら、怪獣ができちゃったみたいな
そうそうそんな感じです。ビジネスで考えたら失敗なんですよ。ちゃんとわかっていたら、もっと儲かっていたはずなのに
一番盛り上がっていたときに、我々、キュゥべえのステッカーしか売るものがなかったんですよ
今でこそ、こんなにグッズ作ってもらっていますけど、全部、終わった後ですから
小さく産んで、大きく育てるつもりもなかったのに、檻をやぶっちゃった
意図しない大ヒットがあって、じゃぁ次はってなりますよね
企まないでヒットを出すのも大事だと思うんですよ。企んで作ったら失敗するかもしれないんじゃないかな。当たるときは当たるから気楽に行こうぜって思えるようになりましたね。なので、僕はスタンスを変えないで仕事していきたいなと思っていて、あんまり気負わずにできる仕事をしたい
虚淵さんのキーワードとして、女の子をひどい目に遭わせたいみたいなのがあるのかなと思っているんですけど
その一方で、出てくる男性キャラはナイーブなキャラクターが多い。気楽に受けられる仕事というのは、どの路線なんでしょう?
うーん…。もっと根本的なことで、やっていて面白いかどうかだと思うんですよ。仕事の内容そのものについては、面白ければなんでもアリかなと
自分が面白いと思うものというのは、虚淵さんの中には確立されているんですか?
いやぁ…。それこそ、大ウケかまそうと思って意気込んで作ったら失敗するんじゃないかな。面白くすることに必死になっちゃうから、それは楽しくないんじゃないかな。あと好奇心は大事にしたいんですよ。やったことないこともやってみたいんですよね
【編集注】※1 陸地のほとんどが大洋に覆われてしまった地球を舞台に、宇宙で育ち戦いしか知らなかった少年と、そこに住む人々との交流を描いた作品。虚淵さんは原案・シリーズ構成・脚本という立場で参加している。
※2 「魔法少女まどか☆マギカ」で、東京国際アニメフェア2012・第11回東京アニメアワード、個人部門脚本賞を受賞。
※3 「魔法少女まどか☆マギカ」。虚淵玄脚本、新房昭之監督、シャフト制作による魔法少女アニメ。キャラクター原案に「ひだまりスケッチ」の蒼樹うめが参加している。なんでも願いを叶える代わりに「魔法少女」になってしまった少女たちの戦いと友情を描く。魔法少女といえば女の子の憧れだが、この世界での魔法少女は普通とは違う過酷な運命を背負っている。かわいい容姿と巧みな話術で魔法少女たちを翻弄するキュゥべぇの「僕と契約して魔法少女になってよ」は流行語にもなった。
アニメはSFを表現するのにぴったりだ
僕、3月までのアニメで『PSYCHO-PASS サイコパス』(※4)がすごい好きだったんですよ
本広さん(※5)がアニメやるって言ったから、それは噛むしかないなと思って参加しました
本広さんがいろいろなところに声をかけてアニメを作り始めて、途中で虚淵さんが参加したと聞いたんですけど
僕は、そのころ『ガルガンティア』でてんやわんやしていて…
ちょっと待って下さい。『ガルガンティア』のほうが先なんですか?
『ガルガンティア』は『まどか☆マギカ』の途中ぐらいからやっていますね。更にいうと、水島精二さんと仕込んでいる『楽園追放』(※6)はもっと前ですね。脚本はかなり前から始まるので、いつアニメになるかはわからないところも多いんですよ
最終回が終わってからまだちゃんと製作者の方とお話できてないんですけど、最終回で、CG世界に麦畑を“作付け”したそうですね
あの映像はしびれましたね。シナリオの段階では夜中から夜明けのエピソードだったんですよ。それを監督が夕日に変えたんですが、これは素晴らしかったですね
最後、意外と犯人が抵抗しないですよね。僕としてはもう一手見せて欲しかったなぁと思うんですが
もう1クールあったらねぇ…。ここまで来たらあっさり負けを認めたほうがいいのかなと思いました
アニメを見るときに、現実逃避のためにアニメを見ている人と、現実を考えるためにアニメを見ている人がいると思うんですが、このアニメはちゃんと現実を考えたい人のためのアニメだったなと思うんですよ。しっかりとしたSFで。SFって社会批判だと言われていますけど、現実を見据えたアニメだなと
SFとアニメってすごく相性がいいと思うんですよ。世界観を丸ごと捏造できるから。実写ではセットを組んだりしてようやく作れる世界が、アニメでは架空のものもリアルなものも描く手間は一緒。アニメだからできるSFがもっといっぱい在ってもいいかなと思っていますけど、今どき、こんなにSFなアニメは少ないかもしれないですね
ちゃんとしっかり考えたいなと思っていたところに「PSYCHO-PASS サイコパス」と出会ったんですよ
本広さんからはSFは控えめにと言われましたけども。舞台が突飛な設定なので、キャラクターの服装や日常は普通にしたいという意向でしたね
今、設定が突飛だって言われましたけど、僕はそうは思わなかったですよ。性格が数値化される世界という設定ですけど、おそらく30年前の人類は自分の体の脂肪が何%あるのかは知らなかったと思いますし、その延長線なのかな
そうですね。そういう考え方で生まれました。数値化できるということは最適解ができるということで…という思考実験的なところで生まれたのがこのアニメです」
[speech_bubble type="std" subtype="L1" icon="yoshida.jpg" name="吉田"]アニメにないものを導入しよう思って企画したんですか?
僕が呼ばれたときには、本広さんたちがかなり煮詰まった状態になってからなんですよ。SFの警察ものとか、サイバーパンクっぽいものはすでに大物がありますから、逃げ道として、テクノロジーの方向ではなくて、常識自体が覆されちゃうようなSFにしようと。それで犯罪係数という設定を考えだしました。刑事が銃にこき使われている世界、銃が善悪を決めていて、刑事は銃を握っているだけというのはどうですか? と提案していったんですよ。未来で刑事というと、僕の中では『ブレードランナー』(※7)なんですよ。ブレードランナーの世界ってよくある服装でよくある街並みの世界なんですね。その中で異質感を出しているのがデッカードブラスター。そのイメージがあったので、刑事はスーツで銃が未来的なのがかっこいいかもと閃いたんです
僕はキャスティングに関してはノータッチなんですけど、オーディションのときに榊原良子さんもいらっしゃっていて、それを聞いた塩谷監督が「局長は榊原さんで」と言ったので、脚本上は男性キャラだったんですけど、女性キャラに変更になりました。あれはハマりましたねー
そうですね。男性と女性の考え方って違うと思うんですけど、女性って怖いな…と正直思いました
脚本のときはおっさんのつもりで書いていたんで、あんな雰囲気はなかったんですけどね
ということは、脚本を書く段階では、虚淵さんにとって性別は関係ないんですか?
狡噛とか朱はちゃんと性別を付けていましたよ。局長は、たまたま男でも女でもいいキャラクターだったんですよ
そういえば、まどか☆マギカはメインに男性キャラクターがいないですよね。あれは全員女の子である必要があったからなんですか?
そうですね。まどか☆マギカのときは女の子の友情をテーマにしたので、必然的に女の子になりました
脚本を書くときに監督の持ち味は考えて書くんですか?
うーん…。最終的に仕上がるのは映像で、それは監督のセンスの結晶ですから、それをどう手伝うかが脚本家なんですね。書きたいものを書けばいいというものでもないんです。この監督が一番輝くのはどんなものだろうと考えるのが筋だと思うんです
そのときは小説を書けばいいやと思っています。アニメは自分1人で完結するわけじゃなくて、いろいろな人の発想が入るから、自分も関わっているにも関わらず、新鮮味や驚きがあるのが醍醐味だと思うんです
1人で作っているわけじゃないということはストーリーの根幹部分も自分だけで決められるわけじゃないっていうことですよね
――ここで吉田があることに気がついた。
あ、すみません、お茶を出すつもりだったんですけど、話が進みすぎちゃって、煮詰まっちゃいました
そうなんですよ。このスタジオ。お茶飲んでアニメの話を延々としていいんです。控室より落ち着きます
それで、最終話まで見たんですけど、あの世界のシステムは崩壊していて、朱ちゃんたちもシステムの嘘に気がついてしまった。壊しちゃえというラストもありえたんじゃないかなーと思うんです
シリーズ構成をしているときから、システムとの共存を選ぶ女と、システムからの脱却を目指す男の話にしようと決めていたんです
企画段階でそれを聞くと面白そうだと思うんですけど、映像が世に出ていろいろ考察していくと、その行動に理由付けが必要になると思うんですけど
そうですねぇ…。男の美学の根本は破滅願望なんじゃないかなと。反対に女性は、如何に生き残るか、未来につなげるかに美学を見出すんじゃないかな。そこが性差としてあって、男のキャラがかっこいい瞬間、女のキャラが輝いている瞬間ってそこにあるんじゃないかな
いろいろなキャラが出ていますけど、そこは狙い通りになってるんですか?
【編集注】※4 人間のあらゆる精神状態を数値化することができるシステムが導入された近未来が舞台。犯罪に関する数値は「犯罪係数」と呼ばれ、罪を犯していなくても犯罪係数が規定値を超えると潜在犯として処罰される世界で、治安維持のために働く公安局刑事課の刑事たちの葛藤を描いた作品。
※5 映画監督の本広克行のこと。代表作は「踊る大捜査線」シリーズ。
※6 東映アニメーションとニトロプラスの合作劇場版アニメ。監督は「機動戦士ガンダム00」などを手がけた水島精二。
※7 1982年に公開されたアメリカ映画。環境悪化により人間のほとんどが宇宙へと移住した後の地球では、「レプリカント」と呼ばれる人造人間たちが人間の代わりに過酷な労働を強いられていた。犯罪を犯したレプリカントを処刑することに疑問を抱いていた主人公デッカードはとある事件を捜査していく中で、レプリカントと人間の違いなどの葛藤を抱えていくことになる。ブレードランナーが日本のアニメ界に与えた影響は大きく、「攻殻機動隊」などに代表されるサイバーパンク作品の多くにはこの作品のオマージュが見られる。
新作は作業カロリー高め!
――虚淵さんの素顔に迫るべく、番組ではニトロプラス最狂広報ジョイまっくすさんにインタビュー。その映像が流れると、「お前か!」と画面にツッコミを入れる虚淵さん。ジョイまっくすさんと虚淵さんは10年来の仕事仲間なのだそうで。
虚淵さんが全て入っている作品ということで『BLASSREITER』(※8)が挙がっていましたけど、すみません、これは未視聴なんです
この作品がなかったらアニメの仕事はしてなかったと思います。アニメやキャラホビって、採算だけ合わせてやっていくもんなんだろうと思っていたんですよ。そしたら、板野さん(※9)がすごくて、50歳間近でここまで情熱を持ち続けることができるもんなんだと思って、アニメって思っていた以上にパッションの世界だった。監督は基本的にパッションの人なので、それを理詰めで考えるのは脚本家の仕事なんですが、それが売れるかどうかを考えるのはプロデューサーの仕事なんですね。なので、監督の気持ちを考えながら作るのが仕事だと思います
アニメはフィクションじゃないですか。フィクションは、世の中に何か影響を与えないと存在する意味がないと思うんですね。虚淵さんが考えるフィクションとは何ですか?
そうですねー。自分が作って楽しいものですね。わりと他のことはどうでもいいです。あとは視聴者の方がそれを見てどう行動するかは副産物で、それがちょっとでも世の中の役に立っていたら嬉しいなぁと思います
――最後に、新作「ガルガンティア」の映像を。
今、まさに作画はてんやわんやしていると思いますけど、僕の仕事はもう終わっていて、収録も立ち会ってきましたし、完成した映像が届くのを楽しみに待っている段階です
もうすでに何話かは見ていると思うんですが、いかがでしたか?
素晴らしい出来でしたね。ただ、大丈夫かなぁ…と心配はしています
それは、作業カロリーが多すぎてって意味ですか? 先発ピッチャーががんばっていい滑り出しだけど、この球速で投げ続けられるの? みたいな
そうですね。最後まで持つか心配で心配で。ただ、作画の現場の状況は僕はわからないので、最後までこの調子で行ってくれることを祈るばかりです
最初が宇宙のシーンだったので、宇宙ものなのかと思ったら、未来少年コナンみたいな舞台になったんですが、これは最初からそうなる予定だったんですか?
今回は、今までの自分の常識がまったく通用しない世界に行った少年がどうやって生きるのかをテーマにしたので、もともとの少年の世界を1話の前半でやって、後半から本編を始める形にしました。まぁ、ぶっちゃけちゃうと、高学歴ニートみたいな感じなんです。宇宙空間は受験戦争のオマージュだと思ってください
なるほど、受験ではあんなにうまくできたけど、実際就職したらうまくいくのかなー? っていう感じですね
今回、僕はシリーズ構成という立場なんですが、これは初めてなんですよ。いろいろなライターの方と打ち合わせをしながらやるのが楽しいですね。自分の引き出しのない展開だとかセリフが出てきたのが面白いです。中身についてはまだ秘密です(笑)
――ここでなんと時間がいっぱいいっぱい。虚淵さんが襖を締めるまでどうにか生放送でお届けできました。今回は内容についてはまったくお話ししていただけなかったので、ガルガンティアが終わる頃にまた来てください!
【編集注】※8 近未来のドイツで、死体が蘇り、異形の生物「デモニアック」となって生者を襲う事件が発生する。デモニアックを狩るハンター・ジョセフは、生者のままデモニアックとなる能力を得るが、それは過酷な運命の始まりであった。複雑に絡む人間関係、SF的要素、恐怖表現など、虚淵さんの全てが詰まった作品。制作:GONZO
※9 アニメ監督・板野一郎のこと。「BLASSREITER」は企画から監督まで行っている。若きアニメーター時代にミサイルがロケット花火のような軌道を描いて飛ぶ表現や、メカが軽快に動く戦闘アクションなど、板野サーカスと呼ばれる演出方法を生み出した。アニメ界の生きる伝説の1人。
今日の一筆

虚淵画、うろ覚えのチェインバー。虚淵さんのチェインバーは貴重!